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「郁、これは……?」
会計室に入ってきた七条の目に入ってきたのは、箱を抱えたカエルのぬいぐるみだった。
かわいらしくリボンがかかっている小さな箱も、かわいらしいカエルのぬいぐるみも
会計室の雰囲気に合っているとは、とても言い難い。
七条に問いかけられた西園寺は、七条に向き直りはしたものの、七条を見やっただけで、
七条の問いには、すぐには答えようとしなかった。
不思議そうな表情でカエルのぬいぐるみに近付いた七条に、溜め息を一つついた
西園寺が、仕方ないと言わんばかりに、七条に声をかける。
「私の趣味だと思うか?」
「郁の趣味……だったら面白いでしょうけど」
憮然としている西園寺をよそに、おかしそうに笑った七条が、目線を西園寺から離すと、ソファーの後ろに
人影を見つけた。本人は、バレていないつもりらしいが、隠れきれていないその姿に、七条は、苦笑いをする。
「伊藤くんですか?このカエルさんを置いたのは」
七条が、ソファーの後ろの人物に声をかけても、なかなか出てこようとしなかった。
困ったように溜め息をついた七条は、カエルのぬいぐるみから小箱を取り上げてみる。
裏を返してみると、そこには「七条さんへ」と書かれていた。見覚えのある字。
状況を把握し始めた七条は、思わず顔をほころばせる。
当の啓太は、ソファーの後ろで隠れたままで、じっと七条の様子をうかがっていた。
「ありがとうございます、伊藤くん。これ、開けてもいいですか?」
それでも答えようとしない啓太に、痺れを切らした西園寺が、声をかける。
「いい加減にしろ、啓太。いつまでもそんなところにいないで、さっさと出てこい」
西園寺にうながされて、ようやくソファーの後ろから出てきた啓太に、七条は、笑いかけながら、もう一度
問いかけた。
「開けてもいいですか?」
無表情のまま、小さく頷いた啓太を確認しながら、七条は、そっと小箱を開けた。
そこには、折りたたまれた紙が、ちょこんと入っているだけだった。
七条は、箱から紙を取り出して、広げてみた。
「これは……」
1枚1枚、チケットのようになっている紙が、7枚連なっている。一つずつ見ていくと、そこには、「プリン」など
甘いものの名前が、啓太の字で書かれていた。
そして、最後の紙には……。
紙を眺めた後、七条が啓太に何か言おうとしたが、それをさえぎるように、啓太が慌てて口を開く。
「順番に使わないとダメですからねっ!」
啓太の説明によると、そのチケットは、1枚ずつ啓太に提示すると、そこに書かれた甘いものが、啓太から
七条に贈られるらしい。そして、そのチケットは、1日に1枚だけ使えるというところが、ポイントのようだった。
「甘いものは、1日に1個まで、というわけですね」
あえて、最後に書かれたことに触れずに、七条が笑って啓太に言葉をかける。
「それだけじゃないです……」
啓太が何か話始めようとすると、「やれやれ」と溜め息をつきながら立ち上がった西園寺が、啓太の頭を
ぽんぽんと叩いて、会計室から出て行った。
西園寺の後ろ姿を見送ったままの啓太の前に回り、七条は、啓太の顔を覗き込んで話かける。
「どういう意味があるんですか?」
もじもじとしつつ、啓太が小さく口を開いた。
「お試し……期間です……」
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