携帯電話の着信で、目が覚めた。
七条と付き合うようになってから、携帯をマナーモードにするようにしていた啓太は、
七条の部屋で眠るときに、着信で目覚めることはなかったのに、急に意識がはっきりして、
ぱちんと目を開けた。
カーテンの隙間からこぼれてくる日の光の強さで、すっかり夜が明けていることを知った啓太は、
起き上がって自分の携帯に手を伸ばそうとしたが、なぜか思うように身体が動かない。
ふと隣を見れば、七条が目を閉じたまま、啓太を抱えるようにして、横たわっていた。
啓太は、七条の腕の中に身体をうずめたまま、起きたときより鮮明になってきた意識の中で、
着信ランプが点灯したままの携帯を気にしつつ、目覚めてしまった理由を思い浮かべてみる。
昨夜は、無茶をしてしまった、と思う。
「無理をさせてしまいましたね」
と、笑った七条を思い浮かべて、思わず啓太は一人赤面する。
新年を一緒に迎えたい、と言ってきた七条の言葉に乗って、啓太は、七条の母親の所持する
横浜のマンションで、年を越すことになったのだが、つき合って、初めて二人で新年を迎える夜に、
何もないハズもなく、それはそれは啓太にとって衝撃的な一夜になったわけで……。
それゆえに、携帯の着信ぐらいでは目覚めるわけもないような……、というところまで考えついたときに、
啓太は、七条の携帯にも着信ランプが点灯していることに気がついた。
「ねぇ、お……、七条さん」
啓太は、小声で七条を呼ぶと、七条は、少しの間、目を閉じたままでいたが、やがて吹き出すように笑って、
目を開けた。
「なんで笑うんですか……」
少しムッとしたように、そう言った啓太を抱く腕に力を込めながら、七条は、啓太の耳元にそっと囁きかける。
「いいんですよ、臣さんでも。昨日の続きを、お望みなら」
昨日の続き……。啓太は、フラッシュバックしてくる記憶を振り払いながら、必死に首を振った。
そんな啓太の様子を見て、七条は、おかしそうに笑っている。
「携帯っ!携帯ですっ」
「携帯?」
動揺して、うまく言葉にならない啓太を抱き締めたまま、七条は、サイドテーブルに置いてある
携帯に目をやった。
七条と啓太の携帯が、同時に着信しているとすれば、相手は……。
「西園寺さん、かな……?」
自信なさそうにぽつりと言った啓太に、七条は、うーん、と首をかしげて言葉を返す。
「郁は、僕と伊藤くんが一緒に新年を迎える話を知っていますからね。そんな無粋なことはしませんよ」
「え?西園寺さん、知ってるんですかっ?!」
すみません、と言いつつ、七条は、嬉しそうに笑っていた。
「嬉しくて、自慢しちゃいました」
子供のように喜んでいる七条に、文句を言う気にもなれず、小さく溜め息をついた啓太は、
まだ携帯の着信を気にしている。
「じゃあ、いったい誰が……」
「無粋なことをすると言ったら、大体想像は、つきますけどね」
七条の携帯も着信しているということは、中嶋ではないだろう。新年の朝に連絡をよこすのは、お祭り好きで、
騒ぐこと好きの丹羽かもしれない。
「王様、かな」
「でしょうねぇ」
相手がわかっているからなのか、七条は、携帯に目もくれず、相変わらず、啓太を抱えたまま、
にこにこと笑っていた。
「確かめないんですか?」
痺れをきらせた啓太が、七条にそう言うと、七条は、困ったように溜め息をつき、一旦、啓太を離して、
啓太と自分の携帯を持って、再びベッドに横たわった。
どうやら、七条に起きる気は、ないらしい。
携帯を渡された啓太は、横になったまま、携帯を開いた。着信したメールは、予想通り丹羽からのものだった。
みんなで羽根突き大会をやるから出て来い、という丹羽らしい内容のメールに、思わず笑ってしまった啓太は、
七条に視線を移して、口を開く。
「王様らしいですね」
啓太の言葉に頷きながらも、七条は、浮かない顔をして、パチンと携帯を閉じてしまった。
「七条さん……」
「行きたいですか?」
そう言った七条の目が、悲しそうに見えてしまった啓太は、急に言葉を失う。
うなだれる啓太を、抱きよせながら、七条は、ゆっくりと口を開いた。
「伊藤くんが好きなお店が、新年用の新作を出すんです。イチゴのたくさん乗ったケーキだから、
伊藤くんが喜ぶかな、と思って、一緒に行こうと思っていたんです。でも、羽根突きに行きたいのなら、
付き合いますよ」
七条は、いつも啓太の事を考えてくれていた。七条の想いを知る啓太は、みんなと一緒に過ごす時間を取るか、
七条と二人きりで過ごす時間を取るか、決めかねている。
「そんなに困った顔しないで」
いつの間にか、啓太を覗き込むように顔を近づけていた七条が、笑ってそう言った。
困り果てた啓太は、覚悟を決めたように七条に言葉を返す。
「一緒に羽根突きに行きませんか?やっぱり……体動かすのもいいかな、って」
七条は、周りとの交流があまりないように思えた啓太が、みんなで過ごす時間を提案した。
みんなの中で、七条が楽しんでくれたら、それが一番良い事なのかもしれない、と。
「体を動かすのなら、昨日の続きでもいいんですよ?」
「なっ……」
いたずらな顔をして、啓太の言葉を茶化す七条は、年が変わっても相変わらずで、啓太は、
返す言葉も見つからず、溜め息をついた。
「じゃあ、もう少しだけ、こうしていましょうか」
そう言って、啓太の身体に腕をまわした七条が、啓太を抱き締める。
ほんのりと温かい人肌に、また眠りへと誘われてしまうそうだった。
新年早々、悩みが尽きない啓太は、七条の腕の中で、七条に振り回されそうな自分の一年を憂いていた。
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