プロローグ 七条×中嶋編


 きっかけは、西園寺の些細な一言だった。
 中嶋が会計室のパソコンにハッキングしてきた。懲りない人だ、と溜め息をつきながら、
七条はパソコンのモニターから目を離すことなく、つぶやいた。


「これは、お仕置きが必要ですね」
「臣、いい加減にしろ」
 淹れたばかりの紅茶を持ったまま、西園寺があきれたように声をかける。
「あまり中嶋に構うな。好きな子をいじめる小学生のようで、みっともないぞ」
「好きな子、ですか…?」
 
好き?そんな馬鹿な。自分の理解を超える西園寺の解釈に疑問を持ちながらも、
中嶋を気にする自分の気持ちを正確に表せない七条は、西園寺の言葉に囚われ続けていた。

 そんなときに、七条は、廊下で中嶋に出くわした。中嶋の顔をまじまじと眺めても、
好きという感情には至らないように思えるのに、なんだか落ち着かない気持ちになっていた。

 
 これは、いよいよ郁の言う通りなのかもしれない。七条が、そんなことを頭に巡らせている
などと全く思っていない中嶋は、皮肉そうに七条を見て、口を開いた。

「何だ、会計の犬か。俺に何の用だ?」
「どうやら僕は、中嶋さんのことが好きだったようです」
 天敵だと思っていた相手の意外な告白に、中嶋は、言葉を無くす。

「好きな子ほどいじめてしまいたくなる心理ですよ。郁が言ってました」
 何かの罠かもしれない。中嶋は、冷静に考えようと思考を巡らせたが、
あまりの衝撃に驚きは隠せなかった。

「な、何を言ってるんだ?本当に本気か?!」
「本当に本当に本当に本気ですよ」

 
あっさりと言い放つ七条に動揺した中嶋は、いつもの調子で言い返すことができない。
優しくしますから、とにこやかに言う七条の手には、怪しげな薬瓶と、
なぜか中嶋のネーム入りの万年筆が握られていた。

「万年筆で優しくできるわけないだろっ!」
 
言ってしまった言葉に中嶋は、ひどく落胆した。しかし、そんな中嶋をよそに、
七条は、中嶋を追い詰めるように迫ってきた。


「たまには受けもいいものでしょう?」
 
満足そうに言う七条に、中嶋は背を向けて、忌々しそうに言った。

「いつか、殺す…」
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