「おはようございます。目が覚めましたか?」
     耳馴染みの良い声が、頭の中を通ってゆく心地よさに身を任せて、
     啓太は、目を閉じたまま、ゆっくりと寝返りを打った。
     「起きて下さい。もう、朝ですよ」
     少し笑いを含んだその声は、さっきより近くで聞こえた気がする。
     夢と現の間を往き来していた啓太は、徐々に意識を取り戻しつつあるのに、
     なかなか目を開けようとしなかった。
     起きなければ、遅刻してしまう。でも、もう少し。
     ほんの数分、もしかしたら数十秒、そんな風に、まどろんでいた啓太に、
     七条は、小さく笑って、啓太の瞼に口付けを落した。

     「んっ……何……?」

     ようやく目を開いた啓太の目に映ったのは、息がかかる程近くにある七条の顔だった。
     「起きないと、遅刻しちゃいますよ?日直なのでしょう?」
     状況を把握しきれていない啓太は、まだ、ぼんやりと七条を見上げている。
     七条は、困ったように笑いながら、啓太のすぐ隣に身体を横たえて、
     啓太の耳元に、そっと囁いた。
     「それとも、日直をサボって、一緒に遅刻しますか?」
     幾分か熱を帯びているように感じる七条の低い声に、啓太は、咄嗟に七条から目をそらせた。
     
     よくよく見れば、七条は、裸のままだった。そして、啓太も。
     そんな光景と、七条の囁きは、昨日の夜に二人が過ごした時間を思い起こさせるようで、
     啓太は、思わず顔を赤く染める。

     「お、起きますっ、今……」
        慌てて起き上がろうとしてバランスを崩し、再びベッドに倒れこんでしまった啓太を、
     ゆっくり抱き起こしながら、七条は、小さく「残念」と言って、啓太の柔らかい髪を撫でた。

     二人で過ごせる夜だけがあればいいのに。

     啓太は、ぼんやりと、七条の言葉を思い出す。
     啓太の中に、かすかに残るけだるさと、甘い感情は、その言葉を納得させるけれど、
     こうして二人で朝を迎えられるのなら、眩しい朝日も愛おしく思えるような気がして、
        啓太は、満ち足りた気持ちになれた。

     「おはようございます、七条さん。今日も一日、楽しく過ごしましょうね」

     七条にそう言うと、啓太は、部屋の窓を開けて、勢いよく朝の空気を吸い込んだ。
        

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