中嶋さんのプレゼントを探しながら、いつの間にか俺はCDショップに来ていた。
「そうか、CDをプレゼントっていうのもアリだよな」
そう思いながらのCD屋さんの中を、あちこち見て廻っていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「君、君!ちょっといいかな」
「え、俺?なんですか?」
スーツを来たサラリーマン風の男の人。会ったことのない人だ。この人は……。
「君、モデルとか歌手とか興味ないかな?」
いきなりすぎる質問に、俺は、驚くばかりだった。
「いえ……あの……、俺、歌とかうまくないし……。それに……あの、俺、高校生なんです!
すみませんがそういうのは、ちょっと……」
「そっか。あ、でも勉強と両立もできると思うし……。君には何かこう、ピカっと光るものを感じるんだよね。
突然だから怪しいと思うかもしれないけど」
俺がいくら断っても、一歩も引いてくれない男の人に困っていると、突然、聞きなれた声がした。

「怪しいな……。うちの生徒に何か用でも?」
「な、中嶋さん!」
慌てて振り返ると、いつの間にか中嶋さんが立っていた。
俺が絡まれてると思って助けてくれたのかな、と思うと顔がにやけてしまうけれど、
中嶋さんの目は、鋭く男の人を睨みつけていた。ちょっと……、いや、かなり怖い。
「あの、お友達?そうだよね、怪しまれても仕方ないかな。自分は、ここのプロダクションの者なんだ」
男の人はそう言って、中嶋さんと俺に、名刺を差し出した。
「ふん、どうやらスカウトっていうのは、本当らしいな」
「ここのプロダクションて、有名な歌手とかモデルさん多いですよね……」
名刺の会社名を見て、思わず俺は、「すごい……」と言ってしまった。
あまり芸能に詳しくない俺でも、名前を知っているぐらいのプロダクションだ。
まさかそんな人に、自分が声をかけられるとは思っていなかったので、一気にテンションが上がってしまう。
もしかしたらこれも運の良さなのかな……、なんて考えながら。

「啓太、まさかその気になってるんじゃないだろうな?」
中嶋さんが怪訝そうな顔をして、俺を見た。
中嶋さんは、こんな話、ちっとも興味なんてないんだろうな……。でも、俺は……。
「えーと……、あの……。でも、ちょっと興味はある……かも……」
おずおずとそう言った俺に、中嶋さんは、容赦なく声を荒げる。
「バカか、お前は!何か特技があるわけでもないお前が、こんな男の口車に乗って、そんなところへ行ったら
泣きを見るのは、目に見えている」
中嶋さんが、まくし立てる。何もそこまで言わなくても……と思いながらも、わかっているだけに反論できなかった。
でも、そう言われてみて初めて、自分の中で可能性があるなら挑戦してみたいという気持ちも芽生えてきてしまった。

「僕は、伊藤くんのモデル姿も見てみたいと思いますけどね」
「し、七条さんっ?!」
いつの間にか、俺たちのそばに来ていた七条さんに、突然声をかけられた。
今日は、なんだか驚かされっぱなしだ。せっかく、中嶋さんの誕生日なのに。
「遠目で伊藤くんが誰かにいじめられているのかと思って、慌てて来てしまいました。スカウトだったのですね」
「いじめられてって、そんな……」
子供のような七条さんの言い様に、俺が曖昧に笑ってみせると、さっきより不機嫌になってしまった中嶋さんが、
鬱陶しそうに口を開いた。
「会計の犬には関係のない話だ。啓太には、勉強と学生会の手伝いもあるからな。そんな暇はない」
中嶋さんの言葉に、小さく笑った七条さんは、なぜか自信あり気に言葉を返す。
「そんなことを言って伊藤くんの可能性を、中嶋さんの一存で潰してしまうつもりですか。可哀想に」
中嶋さんと七条さんが会ってしまうと、いつもこうなってしまう。
中嶋さんも七条さんも俺のことを思って言ってくれているのだけれど、ここは自分の気持ちをちゃんと伝えなければ。
2人のオーラに負けそうになる自分を、一生懸命奮い立たたせた。

「俺、やってみたいです!まだ声をかけてもらったばかりで、もしかしたら全然ダメで終わってしまうかもしれないけど、
自分に何が出来るか、試してみたいんです」
「啓太……」
さすがの中嶋さんも予想外の俺の発言に、一瞬言葉を失っていた。
「やっぱり伊藤くんは、素敵ですね。僕は、応援しますよ。でも、心配なので僕もプロダクションに入ります。
いいですよね、スカウトさん?」
突然の七条さんの言葉に、驚いて、俺は七条さんに向き返った。七条さんは、当然と言わんばかりに、笑っている。
「は?え……えぇ、もちろん君みたいなタイプも大歓迎……」
「ちょっと待て!お前と啓太が一緒な方が、よっぽど危険だ。俺も事務所に入って監視してやる。もちろんいいだろうな?」
な、中嶋さんまで……。
「は、はい、かまわないです……」
中嶋さんと七条さんに圧倒されて、何も言えない俺は、ただ成行きにまかせるしかない気がした。
それからは、あっという間に時が過ぎていった。
成行きとはいえ、俺と中嶋さんと七条さんは、歌手としてデビューすることになってしまったのだった。

そして、なんと初ライブは11月19日!ちょうど中嶋さんの誕生日当日だった。
せっかくなので、俺と七条さんは、ライブ中にサプライズを企むことにして、ケーキやお花を用意する。
「こんな大勢の前で誕生日を祝ってもらえるなんて、格好つけたがりの中嶋さんのことですから、
恥ずかしくて、死んでしまいたくなるかもしれませんね……」
くすくすと笑って、とんでもないことを呟いた七条さんに、俺は、慌てて釘を差す。
「七条さんっ!今、何か?!」
「いえいえ、なんでもありませんよ。当日が楽しみですね、本当に」
七条さんの笑顔に、ちょっと不安を覚えたけれど、俺は、中嶋さんの誕生日を、みんなでお祝いできるのが嬉しくて、
思わず、笑顔になった。
これから先どうなるか分からないけれど、中嶋さんと七条さんがいればなんでも出来そうな気がする。
期待に胸をふくらませ、俺は歌手への第一歩を踏み出した。
執着心デビューEnd。ある意味Good End?!

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