誕生日にケーキ、なんて、中嶋さんには笑われてしまうかもしれないけれど、
俺だったら、やっぱり、誕生日にはケーキがあった方が嬉しい、と思ってしまう。
中嶋さんの誕生日プレゼントを探していたのに、いつの間にかケーキ屋さんの
ショーウインドウに見入ってしまっては、慌てて、店を離れるということを
俺は、何度も繰り返していた。
「伊藤くん?」
不意に後ろから声をかけられて、驚いて振り向くと、七条さんが立っていた。
「どうしたんですか?さっきから、ケーキをじっと見たりして」
笑う七条さんに、俺は、何も言い返せなかった。
見られていたことに対する恥ずかしさと、同じくらい、見ていてくれたことへの
安心感を覚えてしまっていた俺は、ただうつむいたまま、言葉を失う。
「中嶋さんの……誕生日、ですか?」
いつもより、ゆっくりした口調の七条さんの言葉に、胸が締め付けられるような気がした。
誕生日プレゼントを探していたのに。ケーキなんて中嶋さんは、喜んでくれるはずないのに。
「ケーキなんて……子供っぽいですよね……。俺、ダメだな。こんなことばっかり思いついちゃって」
取りつくろうように、無理に笑ってそう言った俺に、七条さんは、笑いかけてくれた。
「嬉しいと思いますよ」
「え……?」
思いがけない言葉に驚いて、思わず、七条さんを見上げて聞き返してしまう。
「嬉しいに決まってますよ。好きな人が、一生懸命考えて、選んでくれたものですよ?」
「好きな……人……」
俺が、一番、自信を持てなくて悩んでいたことを、七条さんに、簡単に見抜かれてしまった。
本当に、中嶋さんは、俺を好きでいてくれているんだろうか。そして、俺は……。
「それにね、楽しいじゃありませんか、誕生日にケーキなんて」
明るく笑ってそう言った七条さんは、前を指さして、歩き始める。
「この先に、美味しいケーキ屋さんがあるんですよ。きっと喜んでもらえますよ」

七条さんに連れて行ってもらったケーキ屋さんは、小さいお店だったけど、綺麗に飾り付けられたケーキが、
たくさん並んでいて、見ているだけで笑顔になれるようなところだった。
「どれも、美味しそう……」
ショーケースに見入っている俺は、ケーキを選ぶことに必死で、七条さんが何を考えているかなんて、
想像する余裕がなかった……んだと思う……。
「試しに食べてみますか?」
そう言った七条さんは、俺の返事を待つことなく、ごく自然に俺の手を取って、お店の中にあるカフェに向かおうとした。
手……つないでる……。中嶋さん以外の人と……。
中嶋さんの顔を思い浮かべているのに、七条さんの手が振り払えなかった。
「七条さんっ……俺……」
俺の言葉に振り返った七条さんは、いつものように優しい笑顔を浮かべていた。
でも、あれ……?七条さんの背中に何か……?
「どうかしましたか?」
お店の中から、甘い香りが漂ってくる。その誘惑には勝てなくて、俺は、結局、七条さんと一緒にカフェに入った。
七条さんの背中には、もう何も見えなかった。
七条さんは、相変わらず、俺を見て、優しく笑っているように見えた。

七啓Endでした。すみません……。

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