「今の状況を変えるんじゃなかったんですか!」
なんとか中嶋を引きとめたい一心で、啓太が決定ボタンを押す。
啓太の言葉に振り返った画面上の中嶋は、寂しそうに笑って、再び啓太に背を向けた。
行かないで。俺は、もう万年筆に怯えたりしないから。
だから中嶋さん、そばにいて下さい。
画面を見つめていた啓太の頬を、涙が伝った。
それでも中嶋は、振り返ることなく、啓太から遠ざかって行く。
「中嶋さんっ!」


叫んだ瞬間、ふと啓太の視界がひらけた。
啓太が見つめているのは、PSPの画面ではなく、啓太の部屋の天井だ。
夢なのか現実なのか区別がつかない啓太は、中嶋の無事を確かめるために、思わず部屋を出る。
「どうしたんだ
啓太の慌て振りに、和希が心配そうに声をかけると、泣きそうな表情で啓太が問いかけた。
「中嶋さんは、まだここにいるのかな……
「中嶋さんなら、さっき部屋に入って行くのを見かけたぞ。何かあったのか


やはり夢だったのだ。
ほっと胸を撫で下ろした啓太は、和希に、なんでもないよ、と笑いかけて、自分の部屋に戻った。
壁にかかっているカレンダーには、今日の数字に、赤く丸がつけられている。
今日は、啓太の大好きな中嶋の誕生日だった。
そして、学園ヘヴンのPSPソフトの発売日は、1週間後。
まだ発売されていないソフトをプレイした夢をみて、うなされてしまうなんて、と啓太が苦笑いする。
啓太が真新しいPSPを眺めていると、先程の啓太を心配した和希が、啓太の部屋に入ってきた。
「お、啓太! 新発売のPSP買ったんだな」
「そうなんだよ。学園ヘヴンがPSPでできるなんて、嬉しいよな!」
啓太の言葉に、一瞬にして顔を曇らせた和希が、気の毒そうに啓太に言葉をかける。
「それ……ダウンロード用のPSPだから、学園ヘヴンは、プレイできないぞ……」


啓太が夢にまで見たPSPで学園ヘヴンをプレイするのは、残念ながら、もう少し先の話になりそうだった。


文:長谷川彩乃