バタバタと大きな音を立てて近付いてきた足音に、溜め息をつく。
どこか浮かれたように騒がしく、無駄に楽しげな様子が、より苛立ちを増加させた。
こんな風に、ここを訪れる奴は、一人しかいない。
「中嶋さん! こんばんはっ」


部屋の扉を開けると満面の笑みで、啓太が立っていた。
そういえば、放課後に生徒会室で、後で部屋へ遊びに行ってもいいかと聞かれ、
別に来たいなら来ればいい、というような返事をしたのだった。
しかし……。
「わ〜いつ来ても中嶋さんの部屋ってきれいですよね
啓太は、相変わらずニコニコしながら部屋の端に荷物をおいてくつろぎはじめた。
「おい……」
「あれ?なんか中嶋さん元気ないです?」
「なんだこれは…」
「なにって」
中嶋が指差した先には、啓太のやたら大きな荷物があった。



「これは夜更かしセットですよ!」
「夜更かしセ……?」
中嶋が言い終わる前に、啓太は荷物の中身を説明しだした。
「えっとプレステとソフトと、トランプ、黒ひげ危機一髪に、ジュース、お菓子、夜食とか、あと眠くなったら着替えようと思ってパジャマ、歯ブラシ、コップ……」
いろいろ取り出すうちに、中嶋の整った部屋が、どんどん啓太の荷物で埋め尽くされていった。
「お……おまえはここに巣でも作る気か?!
中嶋の叫び声が、響きわたった。
「巣、というか私物を置いては、ダメですか
「あたりまえだ。そのつもりなら、今すぐ帰れ」
「えぇそんなっ! 嘘です、冗談です。ちゃんと片付けるので今日は一緒に夜更かししてください!」
「……」
疑わしそうな目をしながら、中嶋は、諦めたように啓太に紅茶を淹れてやるから座っていろ、と言った。
それが返事とばかりに、また啓太は、笑顔を取り戻した。


3時間経過〜
「も〜中嶋さん!このゲームやったことないって言ってたのになんでそんなに強いんですか〜!」
格闘の対戦ゲームをしながら、啓太がつぶやいた
「おまえが弱いんだろ」
「わぁ〜! 容赦なくエグい技ばっかりやめてくださいってば。あぁまた死んだ!」
次はトランプでリベンジしますっ、と言いながら啓太は荷物の中をがさがさ探し始めた。
「まだやるのか…そろそろ、お子さまは、おねむの時間じゃないのか?」
「な! 子どもじゃないんですから大丈夫です! えと、それにまだ寝るわけには……」
啓太は、時計をチラッと見ながら言った。
時計は23時を半分まわっていて、いつもだったら確かにベッドにもぐり込んでいるくらいの時間だった。
「明日も1限からだろう、なにも、今日でなくても、夜更かしするなら、週末でいいんじゃないのか?」
さりげなく気をつかってくれる中嶋にうれしい反面、今日はどうしても譲れないわけがあった。
あと15分。


「今日がいいんです。明日もちゃんと学校行きますし。あ、そーだ。俺コーヒー淹れます
なんとかごまかしながら、啓太はいつもより丁寧にコーヒーを作って、中嶋に差し出した。
あと10分。
「あの……やっぱり急に遊びに来て迷惑でした
勢いで部屋を訪ねたものの、ゲームに付き合わせたり、明日の授業の心配をされたり、やはり半分あきれられているのでは、と啓太は思った。
「いや、来ればいいと言ったのは俺だからな」
「でも、俺、いつもわがまま言って、中嶋さんのこと困らせてる気がします」


「なんのことだ?」
意味が分からないというふうな中嶋に、啓太は、ますます不安になった。
中嶋を好きで好きで仕方ないのはどう考えても自分で、つい一緒にいるとはしゃいでしまう。
でも、それが迷惑で嫌われるんじゃないかとも思ってしまうのだ。
迷惑だったら迷惑だってはっきり言って欲しい。
何も言わずに嫌われるのは耐えられない……。
「だって……」
こんな気持ちを何から言ったらよいいのかよくわからなくなって、じわっと涙があふれてくる。
「啓太」
ぽんぽんと頭をなでられた。
「俺は、おまえがわがままだと思ったことは、一度もない」
「え?」
予想外のことばに、啓太は、驚いて顔をあげる。
「そのままだ。何を気にしているのか知らんが、おまえのやることなんて、全部かわいいもんだ」
「中嶋さん……」
自分を受け入れてくれたような言葉にうれしくて、ついさっきまで泣きそうだった顔が、ついゆるんでしまう。
本当にこの人を好きになって良かった、と思ったその時、時計が11190時をさした。


「中嶋さん、お誕生日おめでとうございます」
啓太は、感謝をこめて、そっと中嶋の頬にキスをした。



「ふん、なるほどな。これがやりたかったわけか…」
「だって中嶋さんの誕生日は、誰よりも早くおめでとうって言いたかったんです。だから今日がよくて……」
「わかった、ありがとう」
あまり感情のでない中嶋の表情に笑みがうかぶ。
「あの、中嶋さん! ちょっとなんですけど、ケーキとプレゼントも持ってきてて……」
啓太はまた荷物の中をごそごそとあさりはじめた。
「啓太、気持ちはありがたく受け取るから今度は俺の遊びに付き合えよ」


「え?」
なにがなんだか分からないうちにベッドに押し倒されていた。
恐る恐る啓太が、口をひらく。
「中嶋さん?」
「さっきは散々つきあってやったんだ。今度は俺に付き合うのが道理だろう」
不敵な笑いをうかべて言った。
「これからは大人の遊びの時間だ」
大人の遊びって? と返す言葉も飲み込まれるくらい深く口ずけられて、中嶋と啓太は白々と夜が明けるまで一緒に過ごすことになった。

おわり


イラスト・文:猫川ロビン