「星明かり」 6
見上げれば、満天の星が広がっていた。
啓太の後ろ姿を追えないまま、七条は、行き場のない思いを振り払うために、
寮を出て、学園へ向かった。

啓太を傷つけてしまった。
屋上へ上がり、ぼんやりと空を眺めても、その事実が、七条に重く圧し掛かる。

「こと座のべガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル……」
空に瞬く星を指差して、星座を上げてみても、七条の心は虚しいばかりだった。
もしも、啓太がここにいれば……。
瞳を輝かせて、空を見上げる啓太を心に描いて、七条は、胸を痛ませる。
「オリオン座のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン……
そう呟いた七条は、思わず苦笑いを浮かべた。夏の夜空には見えない冬の星座。
もちろん今、見上げている空に、冬の星座を見ることはできない。
七条の言葉一つ一つに感心して、七条の言葉を信じてしまう啓太は、頷くのだろうか。
「それは冬の星座じゃないですか」
と言って、笑ってくれるのだろうか。


湿気た空気が、まとわりついて離れなかった。
蒸し暑さは、夕立が現実だったことを、七条に突きつけるようで、七条は、小さく溜め息をつく。
背伸びをした啓太が、七条の髪に触れた。
たったそれだけのことなのに、七条には、それが、
恐怖に思えてしまった。
髪に触れられた瞬間、胸がチクリと痛んだ。啓太の手を振り払わずにいられなかった。
啓太を受け入れることを拒んでいたのは、本当は、啓太を傷つけたくないからではない。
七条は、自分が傷つくのが、ただ怖かった。こんなときに、ようやく気付いてしまうなんて。


学園の中には、ほとんど明かりが、ついていなかった。
一人になれるのは、むしろ歓迎すべきことだと、七条は、自分に言い聞かせる。
どんなに気にかけたところで、七条が卒業してしまえば、啓太との関わりも、それきりになるのだ。


もしも、明日、君に会うことができるなら、僕は、君に笑いかけよう。
閉ざした心は、決して見せずに。今日のことなど、なかったみたいに。
会計室の冷蔵庫に、甘いケーキを用意して、君をもてなそう。
そうして僕は、少しずつ、君の心から離れて、僕を取り戻す。
だから、せめて今だけは。


天に瞬く星座から届く弱い光は、七条の心の奥底までは、照らしてくれなかった。
どんなに手を伸ばしても、掴むことのできない星の輝きは、七条の心を見透かすように、
ゆっくり位置を変えてゆく。

空を見上げたまま、ゆっくり目を閉じた七条は、啓太を想って、静かに心を揺らしていた。

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