「星明かり」 2

頭を下げたまま、啓太は、紅茶の葉を入れた白いポットに、熱湯を注いだ。
熱気を帯びた周りの空気が、湯気に当てられて、少しだけ温度を増す。
息苦しい。君も、そんな風に思ったりするのだろうか。
七条は、うつむいたままの啓太に視線を落して、ぼんやり考えていたが、
やがて、押し迫ってくるような重い空気を振り払うように、首を横に振った。
君は、まっすぐな人だから。

「また、何か考えてるでしょう?」
急に視線を上げて話しかけてきた啓太に、驚いた七条だったが、すぐに
いつものように、平静を保った態度に戻る。
啓太は、相変わらずな七条から目線を外し、寂しそうにうつむいて、ティーカップに
紅茶を注ぎ始めた。それと同時に、カタンと、七条がその場を去る音がした。
「七条さん?!」
拗ねたような自分の態度で、七条が怒ってしまったと思った啓太は、
慌てて七条を追おうとした。
七条は、そんな啓太の素直な視線を背中に感じつつ、冷蔵庫を開け、
綺麗にラッピングされた箱を手に、啓太の元に戻った。

七条は、箱にかかっていたリボンをほどき、包みを開けて、中から一粒、
チョコレートを取り出した。
「美味しいんですよ、これ」
啓太に笑いかけ、チョコレートを啓太の目の前にかざす。
啓太は、さっきまでの気まずさを、すっかり忘れたように、七条に笑顔を向けた。
食べてみますか?と言った七条に、はい、と答えて、啓太は、チョコレートを持った
七条に、両手を差し出す。
啓太は、啓太の手のひらの上に、チョコレートを置いてくれるものだと思って
手を出したのに、七条は、啓太の予想に反して、少し笑って首を振っていた。
「口を開けて下さい」
え?と啓太が、七条を見上げる。ほら、と言って啓太の口元にチョコレートを持ってきた
七条に戸惑いながら、啓太は、言われるまま、口を開けた。
その様子は、親鳥から与えられる餌を待つ雛鳥のようで、その微笑ましさに、七条は、
思わず笑ってしまいそうになったが、啓太の気にさわらないように、笑いをこらえつつ、
啓太の口の中にチョコレートを落した。

「素直ですね」
チョコレートで、口をもごもごさせている啓太は、七条の言葉に、きょとんとしている。
「毒が入ってるかもしれませんよ」
一瞬にして顔を曇らせた啓太の瞳が、悲しそうに七条を見上げた。
冗談めかしているようだが、七条の言葉に、幾分かの棘を感じた啓太は、
甘いはずのチョコレートが途端に苦く思えて、思わず顔をしかめる。
「七条さんは、そんなことしません」
強くそう言いきった啓太に、七条は何か言おうとしたが、思いなおしたように、
口をつぐんだ。

僕の何がわかるんですか。思わず、そう言おうとした。
でも、それは口にしてはならない一言だ。君に対しては、絶対に。


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