「これ……この液体……」
「もう、効いてきたみたいですね」
小さく笑った七条が、啓太の首筋をゆっくり撫で上げると、啓太がピクリと身体を震わせた。
啓太の素直な反応は、七条の感情を、より高揚させる。
「七条さ……ん」
「君はもう、僕の所に堕ちてくるしかないんですよ」



「って、この液体、プロトファイバーじゃないですかっ!」

「あ、バレちゃいましたか?」
いたずらそうに笑った七条は、啓太のツッコミにもめげず、なおも啓太に構い続けようとした。
「これはね、MGNが社運をかけて開発した、効果絶大な媚薬なんですよ」
「大嘘言わないで下さいっ!媚薬じゃなくて、美容飲料じゃないですか、これ」
七条の机の下に置いてある容器には「キレイの原点 プロトファイバー」の文字が見られた。
「プロトファイバーは、カラダの中から美しくなるという原点を大切にした贅沢な美容サポート飲料ですよ。
コラーゲンと相性の良いビタミンCやヒアルロン酸などの成分が、バランスよく配合されているのが特徴で……」

「プロトファイバーの説明は、もういいですからっ!」


ぶつぶつと文句を言っていた啓太が、七条の顔に手を寄せる。すっと七条の顔から眼鏡を取ると、
途端に七条が、柔らかい表情になったような気がした。

「伊藤くん、僕は君が好きです。僕は、君が望まないことは、決してしませんよ」
確かにいつもの七条だった。啓太は、首をかしげながら、七条の顔に、眼鏡を戻してみる。
「君が、啼くところを見たい……」
啓太は、恐ろしいことを口走り始めた七条の顔から、慌てて眼鏡を取った。
「伊藤くん、あまり眼鏡をかけたり外したりすると、眩暈がするんです。これは、効果絶大な……」
「いつも眼鏡かけてない人が、こんなに度の強い眼鏡かけたら、眩暈ぐらいしますっ!」
少し前まで、怯えた目をしていた啓太が、強気に言葉を返してくるのがおかしくて、
七条は、くすくすと笑い始める。

「お気に召しませんでしたか?こんなプレイは」
拗ねたように、七条から目線を外した啓太は、もごもごと口ごもるばかりだった。
「なんか……眼鏡かけても、かけてなくても、そんなに変わらない……ような……」
そんな啓太の言葉に、おやおや、と笑った七条は、啓太の柔らかい髪を撫でながら、言葉を返した。
「賢く正しく、悪魔すらも欺くほどに、上手く立ち回りますよ。君だけの時間のために、ね」
まだそんなことを言う七条に、溜め息をついた啓太は、もう、返す言葉を持たなかった。
「こんな眼鏡に頼らなくても、僕は君に、想像できないくらいの快楽を与えてあげることができますから。
こんな陰険眼鏡なんて、僕には必要ありません」

「え……、陰険眼鏡って……。その眼鏡って、もしかして……」


先ほどとは、別の意味で怯えた目をした啓太を、そっと抱き寄せた七条は、小さく笑いながら、
啓太の額にキスを落とした。

「それは、ナイショです」

これ以上は、聞かない方がいい。そう判断した啓太は、すっかり諦めて、七条に身を任せる。
額から降りてきて、やがて啓太の唇を塞いだ七条は、まぎれもなく、いつもの七条だった。