「ドーナツ?」
啓太は、不思議そうな顔をして、七条に問いかける。
「入浴剤、ですよね?なんか俺、全然想像つかないんですけど」
そう言う啓太に、七条は笑いながら、入浴剤が入った袋を見せた。
啓太は、まじまじと袋の説明書きを読んでいたが、イマイチ想像が及ばないようで、
うーん、と唸りつつ、小首をかしげている。
「試してみますか?」
そうですね、と安易に返事をした啓太は、すぐに自分が言ったことが、七条の思うつぼなのだと
気付いたが、時はすでに遅く、七条は、啓太の手を引き、自分の部屋の浴室へ入っていった。
「七条さんっ」
怒ったように叫んでいる啓太に、七条は、柔らかく笑って「なんでしょう?」と答える。
「別に、一緒に入るわけじゃな……」
「ああ。こんな風になっているんですね」
啓太の言葉を遮って、入浴剤の袋を開けた七条が、中身を取り出して、啓太にかざして見せた。
中央に穴が開いたドーナツを想像していた二人は、丸くて穴がない、黄色の固形物を不思議そうに見ていた。
「あんドーナツなんですかねぇ」
種類一覧を眺めつつ、のんびりとそう言った七条は、入浴剤を、「どうぞ」と言って、啓太に渡した。
啓太は、入浴剤を受け取ると、恐る恐る浴槽に、それを浮かべた。
いったんは、浴槽の中に沈んだ入浴剤が、やがて水面に浮かんで来て、泡を立て始める。
「本当に、揚げてるみたいですね」
楽しげにそう言った七条のみならず、啓太も驚きつつ、楽しそうな表情を浮かべていた。
シュワシュワと音を立てて、入浴剤は、湯の上で泡を立てていた。だんだん、黄色の入浴剤が溶け出してきて、
ドーナツが姿を現す。真ん中に詰まっていたらしい入浴剤が、すっかり溶けると、二人が思い描いたようなドーナツが出来上がった。
「キャラメルドーナツみたいですよっ!」
袋に書いてある絵を照らし合わせながら、啓太は、少し興奮気味に言った。
子供のようにはしゃぐ啓太を愛おしそうに眺めつつ、七条は「そうみたいですね」と言葉を返す。
一通りのイベントを終えて、ようやく興奮がおさまった啓太は、七条に手を引かれて
ここへ来たときから、ずっと七条と手をつないだままだったことに気付いた。
しんと静まった浴室は、特別な気恥ずかしさを助長する。
「あの……、七条さん……」
「なに?」と啓太の耳元に囁きかけてきた七条に、啓太は、どきどきしながら、話をそらすように話始めた。
「こ、これ、買うの恥ずかしくなかったですかっ?」
慌てた様子の啓太に、七条は、小さく笑って、啓太に言葉を返した。
「君が喜んでくれるなら、気になりません」
ここまで言い切られてしまうと、つい、反論できなくなってしまう。啓太は、諦めたように、口を開く。
「お風呂に入るだけですからね」
妥協しているつもりらしい啓太の言葉に、おかしそうに笑い始めた七条は、出来上がったドーナツを手に取って、
啓太に手渡して、そのまま啓太のおでこに、キスを落した。
「七条さんっ」
啓太が、顔を赤らめながら怒っても、悪びれもせずに、七条は笑っていた。
自分を楽しませようと、いろいろ考えて、買ってきてくれたんだから、仕方ないのかな、と、つい思ってしまう啓太は、
どこまでも七条に甘くなってしまう自分に、深く溜め息をついた。
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