「ガトーショコラ、ですか……」
そうです、と笑う七条に、啓太は、不審そうな顔を見せる。
「チョコレートの入浴剤なんて、想像できません」
「じゃあ、どんな入浴剤なのか、確かめてみますか?」
ほらきた、と言わんばかりに、啓太は七条の言葉に反応した。
「一緒には、入りませんよ」
そんな啓太に、七条は、ただ苦笑いをしている。
「それでは、これをお湯に混ぜるところを、一緒に見ませんか?それぐらいなら、いいでしょう?」
また七条のペースに乗せられているような気がしてならない啓太だったが、それくらいなら、と
諦めたように、七条の部屋の浴室へ、ついて行った。
入浴剤の袋を開けてみると、茶色の粉が入っていて、ふんわりと甘い香りが漂ってきた。
確かに、ガトーショコラなんだけど……。啓太は、不安そうに袋の中身を確かめている。
「入れてみますよ」と啓太に声をかけた七条は、啓太から入浴剤を受け取り、それを浴槽に入れた。
入浴剤は、煙のように白く渦巻きを作りながら、みるみるうちに浴槽の中で広がっていった。
「七条さん……、なんかこれ、すごいですね……」
その様子を見ていた啓太は、少し引き気味に七条に話しかける。
七条は、そうですねぇ、と感心しつつ、入浴剤が、一様に広がったのを見届けて、浴槽に手を入れた。
くるくると湯をかき回すと、浴室が、チョコレートの甘い香りで、いっぱいになる。
確かに、ガトーショコラかもしれない。啓太は、茶色に染まった湯を眺めつつ、ちょっとだけ楽しい気持ちになっていた。
「さて」と言って、じっと啓太を見つめる七条に、悪い予感を覚えた啓太は、慌てて七条から目をそらした。
「一緒には、入りませんって言いましたよ、俺」
「そうでしたね……」
寂しそうにうなだれて、七条が、浴槽のふたを閉めた。多分、落ち込んでるふりをしているだけだ、と啓太は、
七条の計算ぶりを見抜いているけれど、それでも、七条に寂しそうな顔をされると、少し胸が痛む気がしてしまう。
ずるいなぁ、と恨めしそうに七条を見上げた啓太は、溜め息をひとつついて、妥協案を提示した。
「じゃあ、俺、七条さんの背中、流しますよ……」
ぱっと表情を明るくした七条が、懲りもせず、啓太に提案する。
「では、僕が伊藤くんの背中を」
「だから、俺は、入らないんですってばっ」
啓太の言葉を受けて、七条が、また寂しそうな顔をする。もう騙されないぞ、という顔で、睨み返した啓太に、
七条は、「残念」と笑って、タオルを手渡した。
いつも、ひどく大人に思える人なのに、たまに、びっくりするほど、子供っぽいことをして、子供のように喜んで、
子供のように、拗ねたりする。
啓太は、七条の隠れた一面を垣間見て、困ったりしながら、その姿を愛おしく思ったりもした。
大きな背中を前にして、少しだけ鼓動を早める啓太は、この次は、背中を流してもらうのもいいかな、
と、こっそり思って、苦笑いした。
Home 入浴剤ヘヴンに戻る。