「帰る場所」

 啓太が、新学期最初の授業を終え、人けがなくなって冷え始めた校舎を歩いていると
反対側からやってきた七条に声をかけられた。


「あけましておめでとうございます、伊藤くん。
会計室に、お土産のチョコレートがありますから、時間があるときに来て下さいね」

 冬休みを、母親と海外で過ごしていたという七条が、啓太と西園寺の仲を
どこまで把握しているのかわからなかった啓太としては、なんとなく新年早々から
会計室に行くのは、ためらわれることだった。
 少し返事を躊躇した啓太は、それを七条に悟られまいと、
慌てて話題をチョコレートに向ける。

「七条さんが買ってきてくれるお菓子は、いつもおいしいから楽しみです。
チョコレートと言えば、来月はバレンタインがあるから、いろんなチョコレートが
食べられますよね」


 そんな啓太の様子で、何かを察したらしい七条は、くすくすと笑い、
からかうように啓太に言葉をかける。

「伊藤くんは、たくさんチョコレートをもらうんですね」

「え、そんなこと……ないです。俺、モテないし……」

 明らかに分が悪くなった啓太が、困ったように、七条に反論する。

「七条さんのがモテるんじゃないですか?頭もいいし、顔だって……」

「褒めてくれて嬉しいです」

 しれっと七条に言われ、その上、

「僕はね、もらうより、買う派なんですよ」

と、答えにならない答えで返され、啓太はむくれつつも、
気になっていたことを、つい口にする。


「西園寺さん、たくさんもらうんでしょうね……」


 少し落ち込んだように言う啓太に、七条は、どうでしょうね、
と首をかしげながら、真顔で言葉を返した。

「2月14日は、郁の誕生日ですから」

 啓太は、西園寺の誕生日を知らなかった。知るきっかけがなければ、
意外にわからないことではあるけれど、啓太には、そんなことすら寂しく思えた。

「それに、郁は、甘いものを好まない人ですからね」

 確かに、西園寺は、女の子からチョコレートをもらって浮かれるような
タイプではなかったし、チョコレートを食べているところですら
想像できないほどの甘いもの嫌いだった。



 啓太は、女の子のように、バレンタインに西園寺にチョコレートを
あげたいわけではなかったが、愛を告白するイベントとして
認知されている日だけに、何かしたいと考えていたところだった。
そこに誕生日の話が出て、啓太は、ますます何かを
贈りたい気持ちになっていた。



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