まだ納得いかないような表情を浮かべている啓太に、西園寺が、なおも笑いながら言葉をかける。
「文句は、これを食べた後に聞こう。これでも、評判の店を選んだつもりだ」
啓太は、諦めたように、箱からチョコレートを取り出し、一つ口に入れてみた。
ココアパウダーがかかった硬いチョコレートの下には、柔らかく、
まろやかなクリーム状のチョコレート。
甘すぎず、苦すぎない、すっきりとした味のチョコレートが、
啓太の口の中いっぱいに広がって、啓太は思わず笑顔になる。
「おいしい!」
勢いよくそう言った啓太に、満足そうに笑いかけた西園寺は、
啓太の頭をぽんぽんと叩き、その場を後にしようとした。
「西園寺さんっ」
慌てて西園寺を呼び止めた啓太に、西園寺が振り返る。
「何だ?啓太」
「西園寺さんも食べて下さい。これ、本当においしいです。甘いものが嫌いでも大丈夫かも」
西園寺は、啓太の手の上に乗っている箱からチョコレートを一粒取り出すと、啓太の口元にそれを近づけた。
「え?」
何かを言おうとした啓太の、小さく開いた口の中に、西園寺がそのチョコレートを落とす。
驚いている啓太に反論の余地も与えず、西園寺が啓太を引き寄せ、強く口付けた。
啓太の口の中に、そっと舌を忍び込ませた西園寺は、舌の先にチョコレートを掬い取って、啓太から唇を離した。
「確かに、な」
納得したようにそう呟いた西園寺の突拍子もない行動に、啓太は、顔を赤らめている。
「西園寺さん……、今日は、西園寺さんの……」
顔の赤さを振り払うように、懸命に口を開こうとしている啓太だったが、うまく言えず、もごもごと口ごもっていた。
西園寺は、啓太の耳元に口を寄せ、囁くように言葉を返した。
「何かくれるのか?」
「さ、西園寺さんは、何が欲しいんですか?あの……俺の買える範囲で……」
「買える範囲で、か」
そう言って、笑い始めた西園寺は、すぐに啓太に向き返り、啓太を真っ直ぐに見つめる。
「啓太に買えるものは、何もないな」
軽い冗談ではなく、啓太には、西園寺の目が本気に見えた。
啓太は、西園寺の言葉に、しょんぼりとうなだれている。
西園寺は、小さく笑って、啓太の顔に両手を置き、啓太の目線を自分に向くように顔を上げさせた。
「私が欲しいのは、啓太が私のそばにいる時間だ。それ以外に、望むものは何もない」
「西園寺さ……」
西園寺の唇が、啓太に重なって、啓太が言葉を失う。
甘いチョコレートの味が、かすかに残るキスは、西園寺の望みを叶えるように、優しく長く続いていた。
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